パタゴニアでは日本支社独自の環境キャンペーン「フリー・トゥ・フロー - 川と流域を守る」を実施しています。この長期的なキャンペーンは、日本の本来の川を復活させ、人間と自然界のバランスを取り戻すために個人または地域社会が現状を認識して行動を起こすことを目指すもので、水源から川、そして海にいたるまでの河川流域が直面している環境問題について率先して声を上げている人びとのエッセイをカタログやウェブサイトで取り上げ、同時に日本の川や流域の保護に懸命に取り組む数々の環境保護グループを紹介しながら展開していきます。
by イヴォン・シュイナード
日本は川に恵まれた国です。水源の大半は日本列島を背骨のように走る深い森に覆われた山地にあり、水量と勢いを増しながら西は日本海、東は太平洋へと流れていきます。数千年のあいだに浸食と堆積を繰りかえした川の流れによって、峡谷や渓谷、台地といった傾斜をともなう景観が作り出されました。無数にあるそれぞれの流域の特性に加え、北海道の亜寒帯気候から九州の亜熱帯気候まで変化に富んだ日本の気候が提供してきたのは1,400種の脊椎動物、35,000種の無脊椎動物、そして7,000種の維管束植物といった驚くべき生物多様性を生み出す条件でした。日本列島が人間が暮らしやすい豊かな土地になったのも、またそうした川の作用によるものです。
川のすばらしさや価値について知らない人はいないでしょう。自然のままの健康な川は飲み水をもたらし、洪水や旱魃による影響を抑え、内陸と海岸を結んでくれるほか、堆積物を三角州や沿海浜に運び、栄養素を魚の生息地にもたらし、さらに汽水域を肥沃に維持する塩分濃度のバランスを保ちます。水源から海、川底から氾濫原まで、川の生態系は自然の周期にともなって雪解け水と雨水を集め、蓄えながら移動させます。
けれども、現在の日本の流域は水源から海にいたるまで人間の活動がもたらす無数の脅威にさらされ、その河川環境は過去半世紀の高度経済成長期以来、急速に悪化の道をたどっています。都市、産業、農地が拡大するにつれて、それまで未開発だった河川はダムや排水路の建設により水の流れや土砂の移動が制御され、清流を保ってきた森林が伐採されるなど川の生き物にとっての生息環境の劣化が激しくなっているだけでなく、その影響は海岸線や海洋の生態系にまでおよんでいます。さらに土地開発に直面する川はより深刻な汚染にさらされています。
いまや日本の大半の川の流路と運命は、人間が思いどおりに決めています。いったんダムを稼働させ、川岸をコンクリートで固めて水を排水で汚染してしまえば、川からすべてを奪ってしまうことになります。川に残されるのは本来の名前だけです。そして、魚が棲めず、子供たちも遊ぶことのできない、ただの放水路と成り果てたその新しい現実は、川に唯一残されるその古い名前に隠されるのです。
川は日本の生態系の活力源であり、川の健康は人間の健康に直接影響します。このまま川をふさいで汚染をつづければ、やがて人間は大きな代償を払わざるを得なくなるでしょう。一方で、時代遅れとなった流域の管理手段に取って代わる合理的な選択肢もあります。私たちが姿勢を変えて行動を起こせば、日本の川と流域の健康を取り戻すことはできるのです。
イヴォン・シュイナードはパタゴニアの創設者でありオーナー。また、年間収益の1%以上を世界中の環境保護団体へ寄付することを誓約する企業の同盟、<1% For The Planet>の創設者でもある。