by 佐々木 克之
近年、森と川と海とを一体として考えようという機運が高まってきている。何冊かの書籍も出版されており、森への関心がとくに高い。水源涵養機能をもつ森は土砂流出を防いで雨水を蓄え、さらには落ち葉由来の水生昆虫といった餌を魚たちに供給し、河口近くの海に生産に必要なミネラルを供給する。けれども伐採などで森が失われると川は濁り、水生昆虫も減少して、魚たちは見えなくなる。川と海を行き来する魚たちは森と川と海が一体である重要性を私たちに教えてくれる。
海と川を行き来する魚たちのなかでも代表的なサケ類は秋に川で産卵し、冬に生まれた稚魚は春に海に下って北の海で大きく成長し、数年で川に戻ったのち産卵して生涯を終える。秋に、海に近い川の河口で産卵するアユの稚魚はすぐに降海し、春に川を遡上して成長すると、その秋に産卵して1年の寿命を終える。ウナギは熱帯の太平洋で産卵する。最近はじめて産卵場所で親ウナギが発見されたが、その稚魚は黒潮にのって日本沿岸にたどり着くと川を遡上し、10年近く成長してから、産卵のためにふたたび熱帯の海まで数千キロメートルの旅をして、生涯をまっとうする。こうした魚たちは生産力が高く、古来より日本人の食卓を豊かにしている。
サクラマスはサケ科の魚であるが、よく知られているサケ、いわゆる日本でシロザケと呼ばれるものとは生活史が異なる。秋に遡上してきたシロザケの親魚を捕獲して人工孵化し、春になってから稚魚を川に放流すると、放流された稚魚は降海したあと北洋で成長。そしてその多くは4年目に生まれた川に戻ってくる。川にダムができてもその下流に放流すればサケは大きくなって戻ってくるため、日本で多くのダムが建設されてからもサケの生産量は減少することなく、放流量を増やすことによってさらに増加してきた。一方、サクラマスの親魚は、春に河口近くに来ると秋にかけてゆっくりと遡上しながら産卵のために川の最上流部をめざす。冬に孵化するのはサケと同じだが、春になっても降海せずに、次の2年目の春まで川で生活をする。この時期のサクラマスの子どもはヤマメと呼ばれる。このころになると、ヤマメのメスすべてと北海道では半分のオスがスモルトと呼ばれる銀色になり、降海する。残った約半分のオスはそのまま川の生活をつづける。降海したヤマメはオホーツク海で成長し、3年目の春に生まれた川に戻ってくる。そのためサクラマスの寿命は基本的には3年である。このような生活史をもつサクラマスは、サケのように放流して増やすことがむずかしい。孵化したばかりの稚魚を放流しても1年間は川で生活するためその間に減少してしまうし、1年間かけてスモルトまで成長させるには多くの経費が必要となる。そのため、サケとちがって放流してもその生産量は増えない。