鳥類学者のエドワード・ハウ・フォーブッシュは、1900年代のはじめに「アメリカシロヅルは絶滅の運命にある」と言い切り、それ以外の可能性はまったく示唆しなかった。
人間ほどの背丈があり、雪のように白く、真黒な翼端と深紅の頭頂で彩られたこの崇高な鳥は、かつてはカナダの樹林草原からアメリカ中西部北の高草原、そしておそらく東はノース/サウス・カロライナにまでわたる広範囲で営巣していた。冬にはそのトランペットのようなけたたましい鳴き声がチェサピーク湾から、そして南はメキシコ湾岸やフロリダでも聞かれた。しかしながら見境のない銃猟により20世紀に入るころにはその生息数はわずか数十羽に減少。絶滅危惧種に関するより賢明な政策の幕開けが訪れたにもかかわらず、アメリカシロヅルは絶滅寸前の状況に追い込まれたままだった。
しかしジョージ・アーチボルドの頭には、そんな悲観的な予測は浮かびもしなかった。「私は楽観主義者なのです」彼はあっさりと言う。コーネル大学の博士課程の学生だったノバスコシア出身の彼は、1970年代に絶滅の危機に瀕する種を含むさまざまなツルの研究を始めた。
「飼育されているツルに適切なことを施せば、繁殖に成功することはわかっていました」と言うアーチボルドは、1973年に同じコーネル大学の学生ロン・ソーイとともに、ウィスコンシン州バラブーに国際ツル基金(ICF)を設立した。
「適切なこと」は数あるが、そのなかでも具体的には、アーチボルドみずからが雄ヅルを真似て跳躍したり踊ったりすることで、人間に育てられた「テックス」という名のアメリカシロヅルの繁殖条件を整え、その後人工授精をして雛を孵化させることを指していた。これは当時わずか100羽を数えるほどに激減していた種にとっては、非常に大きな飛躍だった。
今日アーチボルドはツルの研究における第一人者として全世界に知られている。フォーブッシュには目前と思えたアメリカシロヅル絶滅の危機は徐々に遠のき、現在では野生または飼育下の複数の群れに540羽近くが生息している。しかし楽観主義者のアーチボルドでさえ、まだまだ安心はできないと警告する。
もともとの野生の群れは人里離れたノースウエスト準州とアルバータにまたがるウッド・バッファロー国立公園を営巣地とし、テキサス沿岸のアランサス国立鳥獣保護区まで約1,900キロを南下するのだが、昨年その生息数の記録は266羽だった。またフロリダ中部には1993年に導入が始まった約30羽の留鳥の群れが生息し、さらにICFは米国魚類野生生物局やオペレーション・マイグレーションといったパートナーたちと協力して、毎年秋に孵ったばかりの若鳥の群れを超軽量飛行機で南部へ誘導することによって、ウィスコンシンとフロリダ間を渡る90羽以上のアメリカシロヅルの群れを作ることにも成功した。
大陸を縦横するこれらのツルにとって、パタゴニアの「フリーダム・トゥ・ローム」キャンペーンは極めて重要である。飛行路に安全なコリドー(回廊)がなければこの象徴的な世界有数の野生動物の移動は見られなくなり、また自然のコミュニティを織りなす保護区が連結されなければ、動植物は加速する気候変動に合わせて生息地間を移動することができなくなるだろう。
アメリカシロヅルの群れが直面する問題は多岐にわたる。東部の渡り鳥の群れはウィスコンシンで不可解な繁殖難に苦しみ、フロリダでは水不足と生息地の消失により、縮小する留鳥の群れが大きな打撃を受けている。
急成長を見せるウッド・バッファロー/アランサス群でさえも増大する苦難の下にある。アーチボルドは「難所のひとつはテキサスの沿岸開発と、アランサスの湿地帯に流れ込むグアダルーペ川の水が汲みあげられていること」だと指摘する。湿地帯は宅地開発用に買収されており、アメリカシロヅルがここで主食とするアオガニが生息する河口の塩分を最適に維持する川の水は、汲みあげられてサンアントニオなどの都心に配分されているのである。
沿岸への往復も危険が増している。「アメリカシロヅルの最大の死因は、カナダとテキサス間1,900キロの移動中に起こる電線との衝突です」とアーチボルドはつづける。「そこは『グレート・プレインズ(大草原地帯)』であると同時に、『グレート・ウインド』と呼ばれる地帯でもあるのです。農業に失敗した農家が、どんどんと土地を風力発電用に貸し出す準備を進めているのです」
「私たちが知っているかぎりでは、ツルは風力タービンへの衝突が原因で死ぬことはありません。しかしツルの移動ルートの真ん中に、風力発電開発に必要な何千キロもの新たな電線があるのです」とアーチボルドは警告する。彼の説明によると、アメリカシロヅルは慣習的な休息地を持たないため、事故が起こる場所は予測不可能である。ツルが止まりそうな湿地帯や草原の水場を避けて電線を配置したとしても、ツルは餌を求めて農業地帯へも飛んで行く。風力タービンが建設されて電線が1キロ伸びるごとに危険が増え、この重大な移動ルートは空中ルーレットともいえる危険なゲームと化すのである。
それでもかつて「テックス」とダンスをしたアーチボルドは、アメリカシロヅルの将来に明るい展望を抱きつづけている。アーチボルドは同僚とともにさらなる渡り鳥の群れを作り出す計画を立てており、うまくいけばマニトバ南部の草原地帯と、かつてアメリカシロヅルが豊富に生息したルイジアナ沿岸の湿地帯がふたたびつながることになる。そのときは、トランペットのように声を高く響かせながら大陸上の切断された飛路を繕い、遥か彼方の風景を飛翔と舞いで結ぶアメリカシロヅルの姿を目にすることができるだろう。