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波を待ちながら川について思うこと
コーヒー色をした茶色の水。河口のサンドバーが決まるのは、ほんの一瞬のタイミングが勝負。時間が経てば経つほどサンドバーの地形が崩れていって、ブレイクも微妙に変化してしまうからだ。大雨が降ったあとに流れが落ち着いて、即GO!することが、マジカルなリバーマウス・ブレイクを堪能する掟なのだ。
写真: Naoya Kimoto/ SURF1 magazine

波を待ちながら川について思うこと

by 許 正憲

海の砂はどこから来て、どこへ行くのだろうか。

数学者がその困難さゆえにわざわざ学問の対象に選ぶといわれるほど複雑な現象である海の波。われわれサーファーもよくこんな言い方をする-Go surf before change。「決して同じ波はない。だから何をおいてでもいまこの瞬間の波に乗るのさ」 波のブレイクを決定する要素にはうねりの高さや波長、周期、到来方向をはじめ、沿岸近傍における潮流や風の大きさや向きなどがある。けれども、とくに波乗りに適したすばらしい巻き波(チューブ)を生み出す重要な要素は海底地形だ。サーフィンに適した海底地形にはおおまかにビーチ、リーフ、リバーマウスの3つのタイプがあり、このなかでもとりわけ波に激しい変化を起こすのはリバーマウスである。梅雨の時期、大量の雨によって川の上流から運ばれた砂や小石が河口に堆積すると、沖へ向かって傾斜する海底に小高い盛り上がり部が形成される。これがサンドバーである。そして梅雨明けと入れ替わりでやってくる台風のうねりがこのサンドバーにヒットすると、行き場を失った波のエネルギーは天空へ向けてピークし、サンドバーに沿ったチューブ波として一挙に炸裂する。そしてジャイアントスウェルがつづくと、砕ける波のブレイクインパクトをおもむろに海底で受けるサンドバーは削り取られ、その極上の波は終わりを遂げる。つまりリバーマウス・ポイントは、梅雨と川と台風がこの順番どおりに三拍子そろってはじめて生み出される、期間限定のサーフブレイクだ。そしてはっきりとした四季をもつ日本のリバーマウスは世界でも有数のブレイクを誇ると同時に、国内外を問わず多くのトップサーファーが楽しみにしているポイントでもあり、とくにローカルサーファーは1年の生活のリズムをこの時期にフォーカスしている。

ところが近年各地のリバーマウスからは、十分な雨が降ったあとに台風のうねりが到来したにも関わらず本来のブレイクにならない、という異変が報告されるようになった。川から十分な砂が供給されないためサンドバーが形成されないのだ。その最たる例のひとつとして挙げられるのが湘南海岸だ。湘南海岸ではリバーマウスのみならずビーチへの浸食影響までが深刻化しているが、その主原因のひとつにダムがある。相模ダム建設が着手された1938年以前と比べて、現在の相模川からの相模湾への供給土砂量は約3%ほどしかない。河口に堆積した土砂は、グランドスウェルとともに素晴らしいブレイクを生み出したあと削り取られ、隣接する海岸に運ばれる。そこで同じように波と流れによる浸食と堆積が繰りかえされ、その土砂の一部がさらにまた隣の海岸へと運ばれていく。これを繰りかえしながら湾全体における砂の収支バランスが取られ、海岸線を維持している。そしてこの浸食/堆積メカニズムの起点になっているのが河口であり、そこへ土砂を供給しているのが川である。相模川の土砂供給量の激減により、隣接する海岸では砂収支のバランスがくずれ、とくに茅ヶ崎海岸では台風などで大きな波が押し寄せると一時的に浸食が進行し、砂浜は大きくえぐられ、その浜がけは自転車道路までをも飲み込んでしまう勢いだ。河口で波乗りできるかどうかは川と海岸の健康状態を表すひとつのバロメータなのだ。

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著者
独立行政法人 海洋研究開発機構に勤務しながら東京大学客員教授として教鞭を振るう。専門分野は深海工学(工学博士)。数千メートルの深海底を研究フィールドに世界の海を駆けめぐりながら、<サーフライダー・ファウンデーション・ジャパン>副代表として環境保護活動にも取り組む。また長年にわたりサーフィン専門誌などで環境やライフスタイルを切り口としたメッセージを発信している。台湾出身。鎌倉市稲村ガ崎在住。

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